missing tragedy

変態さんでも好きなんです!

 彼と付き合ってから約半年。親友時代は知らなかった彼が見えてきて少々私は困っていた。
「日向君、これどうしたの?」
 四月の最後の金曜日の夜、私はご飯を作りに行った日向君の部屋であるものを見つけた。メイド服である。しかも三着も。
「え? メイド服? かな」
 日向君はそれがどうしたと言わんばかりに不思議そうに小首を傾げる。相変わらず愛らしい。
「いや、そうじゃなくて、なにに使う気だったの?」

 本当は誰が着るはずだったの?と聞きたかったが私にそんな勇気などなかった。
 他の女の子とかだったらまだしも、もし日向君のお母様とか日向君自身だったときにうまく返答など出来る自信が私にはないからだ。
 すると彼はにこっと笑ってさも当たり前のように答えてくれた。
「真魚に着てもらって専属メイドさんご……っ」
 皆まで言われる前に日向君の鳩尾に一発お見舞いし、私はメイド服を破こうと立ち上がる。
 メイドごっこなんて恥ずかしすぎて出来るわけがない。だいたい三着あるうちの一着なんか絶対普通のメイドさんが着るような代物じゃないし。こんなのグラビアアイドルか下手したらAV女優しか着ない。
 しかし非実用的なそれらを破きにいこうとした私の前に日向君が鳩尾を押さえながら立ちはだかった。
「いてて……真魚落ち着こう」
「落ち着いてます、こんなの絶対着ませんから、捨てます」
 きっと日向君を睨み強行突破しようとする。しかし日向君も必死らしい。私の両腕を掴んで立ちふさがるように阻止してきた。
「着ないからね! こんな恥ずかしい格好死んでもしないから!」
「そんな事言わずに! な? これ高かったんだよ? 僕の初任給の六割近く使って買ったんだから!」
「そんなものに初任給使うな! もっと有意義に使いなさい!」
 そう言うと涙目で「じゃあ何に使えばいいんだよ?」と見上げてくる日向君に「えーと、ゲームとか」しか答えられなかった私はやはりゲームおたくなのだろう。
 一般的にはあまり有意義な使い道でないその答えに日向君は不服があるようで、眉を寄せるとため息をわざとらしく吐いた。
「も、もうバカにしないでよ! どうせ私はゲーオタの引きこもり気味のしがない会社員ですよ!」
 自棄になってそう吐き出したもののかなりむなしさが残ったのは気のせいではない。でも日向君だってほとんど変わらないと思う。ただそれに「すごくもてて仕事が出来る」と言う語句が入るだけだ。あと「変態」もはいるかもしれない。
 そう、彼は社内では大変評判がよい。仕事も出来るし頭もいいからもっと大きい企業でも十分は入れたはずなのに。なぜか私と同じ、ややこじんまりした会社に勤めている。ちなみになぜ同じ会社に入社したのかは怖いのでまだ聞いていない。
「うん。しがない会社員だけれど、この世で一番可愛い僕の愛する奥さんだよね」
 にっこりとそう直球にこられるとむずがゆい。だいたい奥さんになった覚えは少なくとも私の記憶にはない。いつ何処で私は日向君と結婚したのだろうか?

「だからさ、可愛い可愛い真魚、これ着て僕の前でないて。いいでしょ?」
 ないて、の語句の意味がいかがわしいことこの上ないがこの際そこはスルー推奨なのだろう。
「恥ずかしいし! 似合わないし! そんなの着れない!」
 いつの間にか散乱していたはずの服を持ってじりじりとにじりよる日向君の目は欲を含んでいる。それもいつものとろけるようなものではない、獲物を貪る前の肉食獣のようなそれだ。
「じゃあ問題ないね? まずは、さ」
 日向君はニヤリと笑うと首からネクタイを外し私の目をそれで塞ぎ、同じく私の両腕を何か柔らかい、タオルのようなものでぐるぐる巻きにする。ちなみに抵抗は勿論した。しかし器用に両腕を押さえられ虚しいかな全く歯が立たなかったのだ。
 視界が真っ暗になった私に日向君は再度囁きかける。息が首筋に当たりくすぐったさに身をよじった。
「これで恥ずかしくないだろ? じゃあ次は「着れない」と言う問題だね。解決方法は簡単だよ、僕が着せてあげる」
 その言葉を聞いて冷や汗が背中を伝う。これ絶対にエッチになだれ込む気だ。ここ最近仕事が忙しくてほとんど私とそういうことはしなかった日向君だ、絶対たまってる。
 このまますれば一晩中どころか明日の夕方まで私の身体の自由を許さないはずだ。それは体力的にもきつすぎる。
「日向君、いや日向様! 話し合おう! メイド服は百歩譲って着る。だから目隠しを外して下さい! あと明日私を無事に家に帰せるように今夜は接して欲しいな。お願いします」
 腕を頭上でまとめ上げ首筋に吸いつく日向君に懇願するも彼は何も答えない。感じるのは日向君の柔らかい唇の感触とその後にくる紅い痕をつける時の痛み、そして彼の悩ましげに吐かれる色っぽいため息の音だけだ。
 ただそれだけからでも長い付き合いのせいか日向君がかなり欲情している事は感じ取れて自然と顔に熱が集まる。私の脳をいっぱいにし、下肢の疼きを生み出す。
「あっ、ひなたく、んっ……やだ」
 ぷちん、ぷちん、というボタンを外す音が聞こえ始めたかと思うと不意にキャミソールをたくしあげられた。まだ夜は肌寒い四月の空気が胸の先端をなでる。
「真魚、着がえる前に俺のでたっぷり可愛がってあげるね。」
 瞬時に言葉の意味がわからない私の、主張し始めた胸の先に直に何か固いものが当たった。その正体の予想がつき始めたのはそのままその固い物で先端を擦リ始めてしばらくたった頃だ。快感に私の桃色のそこがぷっくりとなると同時に次第に何か得体のしれない物で胸全体がぬるぬるしだしたときだった。
 ぐりぐり押し付けられどんどん固くなっていくそれ、おそらくそれから出ている液体、加えて日向君の性格、何もかもがそれをいつも私のナカを穿つそれだと表わしていた。
「日向君のえっち、あっ、や……」
「だって、俺ので真魚の先っぽいじめられるの、見るの嫌でしょ?」
 だからって目隠しする事ないではないか! と激しく文句を言いたい。好んで見る訳ではないが、視覚を奪われるというのは不安だし、今更とは思われるかもしれないが私の痴態を見て幻滅されたりしたらすごく嫌だからだ。それに重症だとは思うが私はどんな日向君だって好きなのだ。だから――。

「やっ、ひな、っくんの顔み、たいよ……恐い……」
 気持ちはいいけどこれは危うい快感だ。こういうのを好む人もいるだろうけど私はできたらもっと違うのがいい。ちゃんと顔を見て、確かめあって、近くで日向君を感じて、一緒に皆含めて一つになりたい。
「や、だ……あうっ……ひなっ、くんや……」
 とうとう、涙が溢れて目隠しが濡れ始める。気付くと涙は頬を濡らすまでになっていて、触れていた日向君のそれの気配はなくなっていた。
「ひ、なたくん? 日向君……っ!」
 やめて欲しいと懇願してその通りになったはずなのに、急に離れたその温もりに不安は逆に増してしまう。
 頭にめぐるのは悪い考えばかり。つまらない我儘な女だと、めんどくさい奴だと嫌われてしまったのではないかと後から後からそれは出てくる。
「ご、ごめんなさいっ、私……」
 そう涙と一緒にぼろぼろと言葉が溢れたとき、求めた温もりが唇に優しくふってきた。そのまま肩をそっと抱かれ深く口付けられる。と同時に視界が明るくなり滲んだ世界に欲しかった日向君を見つけた。

 大事なものを扱うようにそっと、しかし強く抱きしめられ唇が離れたとき日向君の潤んだ瞳が見えた。
「何で謝るの?僕の方こそごめん、また真魚のこと泣かした。意地悪し過ぎた、酷い事してごめん。でもダメだ、最低だとわかっているのにそれでもまだ真魚の一番近くにいたい」
「私だって、日向君のこと満足させてあげられないかもしれないけど、一緒にいたい」
 涙ばかりでなく鼻水もでてひどい顔であったろう私のおでこに日向君は自分のおでこをくっつけると真っ赤になって「そんな今までで一番可愛い顔しないで。こんな時勃ったら僕真魚に顔向け出来ない」と言う。

 そして実際昂ぶったそれが私の鳩尾に当たって日向君はばつが悪くなったのか視線を逸らした。
 好きな女の子に悪戯するのが好きで、調子に乗りやすくて可愛い日向君。
 鼻水と涙でぐしゃぐしゃの顔が一番可愛いと言う変わった日向君。
 優しいのに、変態で、意地悪で、やっぱり優くて、大胆なことをしてあとで後悔する小心者の日向君。
 そんな彼が全部まとめて好きなのだから私もかなり変わった趣味を持っているのかもしれない。

「日向君、こっち、向いて」
 彼の頬に両手を添えてこっちに顔を向かせる。切なそうな、揺れる瞳をまっすぐに見て私は自然にその言葉を呟いていた。
「好き。全部好き。これからずっと、おばあちゃんになっても一緒にいたい」
 瞬間、日向君の目が点になって。私が自分の吐いた言葉の重大さに気付いたときは彼の目は細められ、私を抱き寄せていた。
「真魚、何人欲しい? 名前は何にする? いつから一緒に住む? 家は何処がいい? 今日から毎日抱いていい?」
 そんな日向君の質問は事細かに数分続き、その質問に全部答えるのにまた少し苦労をしたけれど。

 億劫に思うどころかすごく嬉しかったことはこの先一生、恥ずかしくて誰にも言えないと思う。



 ***


「ひなたく……、好き、もっと……」
 艶っぽい表情で僕を求める真魚は世界一、いやこの世あの世全てひっくるめてその中で一番純粋で素直で可愛くて可愛い俺の奥さん(予定)だ。可愛いを二回いったのはそこが特に大事だからだ。
 真魚にプロポーズ同然の告白(だと僕は思っている)を貰った僕は言葉には言い尽くせない喜びと同時に少しの悔しさを味わった。

 絶対に僕から真魚に言おうと思っていた。一年かけて彼女を絶対に幸せに出来る力を僕が持てるようになったら言おうと思っていたのに。
 彼女を泣かせてしまい、それはもっと先になってしまうかもと思った矢先に言われてしまった。
 言われてしまったとはいえ、嬉しいものは嬉しい。だが、何というか真魚は男前過ぎると思う。僕が女々しいだけかもしれないけれど。

 でもそんな真魚も全部まとめて愛しているのだ。めんどくさがり屋な所もゲームオタクな所もすぐ赤くなる所もだ。そして僕だけが知っている事もいくつかある。情事の際の可愛い啼き声も、彼女の僕だけを知る膣壁の感触も、何処を僕で穿つと真魚が一番気持ち良いかも、次の日の朝の恥ずかしそうにまるまる彼女の姿も。それらは全て僕だけの特別なものだ。

 優越感に浸る僕は人間としてどうかとは思うけど嬉しいものは嬉しいのだから仕方ない。

「真魚、僕も……好き、だ」
 入り口ぎりぎりまで僕自身を引き抜き最近見つけた彼女の一番気持ち良い所目指し勢いよくいれる。もうどちらかのかわからない液体が蜜口の周りだけでなくちょっとむっちりとした太もも始め、柔らかいお腹など彼女の白い肢体にかかる姿は淫猥で。彼女のナカで一度萎えた回数が今日で数回目になるそれに再び活力を与える。
「ひな、っくんっ……きて、して……」
 僕に強請る真魚を、激しいその下半身の行為が彼女の負担にならないようになるべく優しく抱き寄せ、顔の至る所に口付けの雨を降らす。本当は胸も背中も腕も脚も秘所も皆みんな全部めちゃくちゃになるほど抱き潰したいけれど。
 真魚のことを思うならそうしてはいけない。いつか、一回だけ、短い時間でいいからしたいという気持ちは封印しておこうと思う。

「は……っう……っく」
「ん~~っ!」
 真魚と同時に真っ白になって僕は彼女のナカに薄い膜越しではなく直接欲を吐いた。
 真魚の荒い息遣いが再び欲を呼び起こして僕のそれはすぐに元気になってしまう。
「ごめん、真魚。もう一回したい」
 僕のわがままを言うと彼女はとろんとした瞳でこくりと頷いた。

「好きだ、愛してる、真魚」この三つを今夜も僕は繰り返す。何度も言っていて重みがないかもしれないけど嘘偽りは一切ない。

 昨日も今日も明日もこの先一生きっとずっと。

 好きだ、真魚。愛してる、真魚。
 ずっと、一緒にいてほしい。