missing tragedy

cock-and-bull……¡

動き出した時 ①

 一旦ノアと共にサラの家へと帰宅したエリスは、諸々の関係者へ連絡し、謝罪や感謝の言葉を伝えた。
 文句や罵声を浴びせられても仕方ないと覚悟していたが、落胆されることはあれど、心配やこちらを気遣う言葉をかけてくれる者も多く。中には開院の目処がついた時には声をかけて欲しいと申し出てくれる者までいた。
 その日エリスは何度も「すみません」と謝り、それ以上に「ありがとうございます」と礼を述べた。

(私、一人で治療院を作るんだって躍起になって、傲慢になってた……。恥ずかしい。治療院は白紙に戻ってしまったけれど、皆が協力してくれていたこと、さっきかけて貰った言葉……忘れたくないな……)
 罪悪感や申し訳なさを感じつつ、周りの人々の優しさに一層気が引き締まる。
 そしてそれはぼんやりと。エリス自身が治療院に勤めたり、直接経営や運営するという形にこだわらなくても良いのかとの思いに至る。

「……さて、ノア達もそろそろ終わったかな……?」
 つと、エリスは客間の扉を見やった。到着した途端、サラは話があるとノアを客間に通し、既に一時間。

 徐々にエリスも不安になってきた。

 何しろ客間とは名ばかり。客間として使われた頻度よりも、ハンナやサラに個々別に呼び出され注意される時に使われた頻度の方が圧倒的に高かったと記憶している。
 始まりは姉弟の前で、それも血の繋がらない姉弟の前で叱責や注意する事は好ましくないとのハンナの判断からだろうが。
(ノアが居なくなってからも、うっかりサラ姉のお菓子食べちゃった時とかあの部屋に呼ばれたのよね……ノア、大丈夫かな……)

 エリスはうろうろと意味もなく扉の前を行き来する。一旦は書庫に行き、歴史と法律関係の資料に目を通していたが。結局気になりめぼしい資料を持出し居間へと戻った。
 ノアが帰還した当初の険悪さはなりを潜めたが、未だぎこちない雰囲気である事には変わりない。
 ノアとの交際は昨朝既に伝えたが、特に質問もなく。いやにあっさりした反応だった事が今になってはかえって不安を煽った。

(揉めてる気配がしたら、中に入ろう。ああ見えてサラ姉って凄く強いんだもん……)
 何度か見た、ノアとサラとの体術を取り入れた剣や槍の稽古。あれは凡人のエリスが見ても、簡単に真似出来るような代物でないと容易にわかる。
 何かの時の為の護身術、そう彼女らははぐらかすが。平和なミニアムで、どころか王城でも使い道があるものなのか不明である。
(本当に、怪我してからじゃ仲直り出来るものも出来なくなっちゃう……!)

 エリスは良くないことと知りつつ、王族の諸権利に関わる条文に目を通しながらも時折密かに聞き耳を立てては、静けさを保つ隣室に胸をなで下ろしていた。


 一方。時は遡り二時間前。客間でサラは勢いよくノアに頭を下げた。
「本当に悪かったと反省しているわ。改めて、謝らせて下さい」
「え……? いや、本当に良いって。僕がサラ姉でも同じ事をしていたと思う」

 俯くサラの眉間にはしわが深く刻まれている。ローエ邸に入るや否や防音魔術の施された件の客間に呼び出され、ノアはてっきり何か――――おそらくエリスとの関係絡みで――――注意や叱責を受けると思い込んでいた。大人げなく身構えさえしたノアは、サラの開口一番に拍子抜けする。

 彼女には先日、大方の事情を話してはあった。お互いの様々な誤解が一応は解けたもののサラは終始多くを話さず。エリスやサラに心配や迷惑をかけたのは事実であり、裏切られたと感じても一切不思議は無い状況だ。
 謝罪の他にエリスの命を守り続けてくれた彼女に礼を述べ、とうとう黙りこくってしまったサラとは別れたのだが。

(だいぶ責任を感じさせてしまったかな……)
 彼女の事だ、大方事情通の従兄弟にでも頼んで全てを探った末の謝罪だろう。

「サラ姉は全部、知ってるの?」
「ええ、まあ。……エリオに聞いたわ」
「やっぱり」
「ノアは……」
 そこで一息、サラは躊躇うように言いよどむ。長いまつ毛に縁取られた翡翠色の瞳が床をさ迷い、しばし逡巡し。意を決したように顔を上げた。

「あれに……ナールに会ったのね?」
 真っ直ぐな瞳にノアは頷き「一度だけね」と誤解を期待した言葉を添える。サラは大きく息を吐き、「やっぱり」と肩を落とした。俯く翡翠色の瞳はどこか遠くを見ている。寂しそうにサラは苦笑いを滲ませると、またノア達の義姉の表情へと戻っていった。

「ひとまず無事で良かったわ。これからも気を付けてね」
「ありがとう」
「それより、」

 やにわにサラの声音が一段と低く冷たくなる。その場に緊張が走り、部屋を護る魔力が僅かに濃くなる気配がした。

「ノアは知っているかしら? 王都での噂」
「どうだろう? どんな噂?」
 曖昧に微笑み首を傾げると、サラも紅の引かれた唇に微笑をたたえる。
「あら? フェルザー家のエーミール卿が悪魔に乗っ取られたとかなんとか。近頃は随分と悪魔と出会える人が増えたものね」

 パキリ、とサラの持つグラスの中の氷が音を立てた。割れた氷の衝撃で琥珀の液体が揺れ、緩やかに揺蕩っていた他の氷までもがざわめくように続く。
 義姉の歳は三十に程近く、装いは質素そのもの。薄化粧を施したのみではあるが、目鼻立ちのはっきりとした整った顔立ちは、身内の贔屓目を差し引いても美人の類に入る。
 美人は……と言うよりもサラは、凄みをきかせても怖いが、ゆっくりと、意味ありげに首を傾げて微笑んでも怖いのだとノアは改めて感じた。

「そうみたいだね。……いずれ、サラ姉にも協力をお願いする」
 隠し通せないと、ノアは素直に頭を下げる。計画に彼女の協力は必須。今話しても、もう少し先で話しても、彼女ならば変わらないと踏んだのだ。
「ありがとう」
 顔を上げぬノアにサラは嘆息し、もの悲しげな瞳を向ける。
「……良いわ。貴方には悪い事をしたし、何より心配だもの。噛んでおいた方が得策。あと、エリオにも……もっと先輩や年上には頼る方向でいきなさい。業界は甘くないわ。し返されるわよ」
「肝に命じる」
 あえて苦笑で返したものの、彼女の真面目な面持ちは崩れない。過剰な心配でもなく小言でもない。サラの告げた事は忠告で、充分に有り得る未来なのだろう。

「ところでノア。洞窟を調べる日は言いなさい。一人で隠蔽するのは大変でしょう? 個人事業じゃあるまいし、そのくらいなら私の方も動くわよ。最近は監視も手薄だし運動不足にはちょうど良さそう」
「ありがとう。じゃあ頼もうかな。さすが。我らがサラ姉」
「全く。おだててもダメなものはダメだし、やりたくないことはやらないわよ!」
 突っぱねるような言葉とは裏腹に、サラの顔には悪戯っぽい笑みが浮かぶ。
「わかってる。頼もしいね」
 妙齢の女性に対しては誤解を招きかねないと、逞しいという言葉は伏せた。

 時計をちらりと見やる。正午まではまだ時間がある。エリスはまだ各所への連絡を取っているだろう。まだサラと話す時間はあるが、この状態ではあまり長居しない方が良さそうだ。やきもきする兄の姿が目に浮かぶ。

「サラ姉、ナールとの接触については兄さん達に伝えないで欲しい。ほんの少しだったし、何事も無く無事だったんだ。余計な心配をかけたくない」
「わかったわ。まあ貴方に言われなくても言う機会もないし……」
 途端、苦虫をかみつぶしたような顔になるサラにノアは苦笑する。この様子だと哀れな兄の想いが届くのも大分先になりそうだ。

 人の心とは叢雲に霞む月のように淡く不確かで、揺るがぬ大地のように固く難しい。悪魔の力を借りたとしても借りないとしても、自身であっても他者であっても。きっと正しく捉え、願ったように変えていくことは一朝一夕では叶わないのだろう。

 背筋を正す思いに駆られるノアはふと、昨晩告げられた悪魔の願いを思い出した。


 ○○○


「えっ、姉ちゃんどうしたの⁉」
 昼食を取り、もう一度調査をしようと洞窟へと向かっていた時。あどけない声がエリスとノアを呼び止めた。
「ジウ!」
「わ……ジウ、大きくなったね」
 振り向き相次いで屈むエリスとノアを交互に見ては、ジウは訝しげに首を捻る。

 今年五つになるジウが、ノアに対して警戒するのはさほどおかしいことでは無いが。どちらかと言うと今、胡乱な瞳を向けられているのは主にエリスなような気がしてならない。

「……姉ちゃん、ちょっと来て」
 声を潜めるジウに裾を引かれ、エリスは耳を近付ける。
「エリス姉ちゃん、なんか困ってる? あの人いつもの人とちがうやつじゃ……」
「いつもの人……?」
「なんか胸はってて目立つオトコだよ! 最近いるあいつ、どうしたの? あのね。一緒にいるいせーのいいやつ? がすぐにコロコロ変わる人はじょーちょふあんていだから、気にかけてやれって」
 ジウの言葉にエリスはドキリとする。
「あ、ありがとう。ジウ」
「オレは大人だからね。みまもるんだ。子供はあいさつだけって言ってたけど」
「そ、そっか……」

 様々なところから聞きかじった話と、誤解と不安が彼の中で結合してしまったのだろう。そしてジウなりにエリスを気遣って声をかけてくれたのだ。

(ベークマンさんの事は特に皆には言ってなかったのだけれど……目立つ人だから噂になってたんだ)
 幼い少年がこれ程認知しているのだ。この大きくも無い街でどれ程エリスとベークマン、そして帰還したノアの事が広まっているか。考えるだけでくらくらした。
「姉ちゃん、……いい人そうだけど、人はみためによらないって母ちゃんが言ってたよ。また騙されてない?」
 不安げな茶の瞳がエリスを見上げる。
(ジウにこんな言葉を……ど、どうフォローすれば……)
「大丈夫だよ」
 その時、心地の良い低音が救いの手を差し出した。
 様子を察したのだろう。ノアはジウの目線に合わせたまま、諭すようにゆっくりと話す。

「この間の人は僕の知り合いで、悪い人じゃない」
「……あんた、誰?」
「挨拶が遅れてごめんね。初めまして。僕はノア」
「オレはジウ……こんにちは」
 普段の威勢ややんちゃさはどこへやら。ジウは言葉少なに、警戒心を解かずにノアを見つめる。

「僕はエリスお姉ちゃんとお付き合いしてるんだ。あまりミニアムに来れなかったから、この間の人に頼んで、お手紙を渡して貰ってたんだよ」
「嘘だ。普通は郵便屋さんにたのむ」
「お仕事でこの間のお兄ちゃんには会うから。郵便屋さんより早いんだ」
「そうなのか……? そう言えばあの人、すぐにいなくなるな……」
「あのお兄ちゃんも忙しいからね」
 うんうんと肯くノアにジウの表情も少しだけ和らぐ。

「ねえ、兄ちゃんは……ノアは、エリス姉ちゃんのこと騙してない?」
 不安と疑惑と、期待と興味とが混じった眼差しにノアは躊躇いなく答え、微笑んだ。
「騙さないよ。大好きだもの」
「うっ……うん。そっか。そんなすきなの?」
「うん。大好きだよ。世界で、宇宙で一番、大切で大好きなんだ」
「うちゅう……姉ちゃん!」

 ジウは赤くなっていたエリスの袖を引くと、神妙な面持ちで耳打ちし始める。
「かんだけどさ、この間のよりいいと思う」
 至極真面目な様子で、合格だと言わんばかりにジウは親指を立てた。慌ててエリスは辺りを見回し、ほっと胸を撫で下ろす。道の向こうで畑仕事をするジウの母、遠くで牛の世話をする影が見える他は誰も居ない。ノアから聞いていたように、基本的に監視役の人間はいないようだ。
(自分で身を守れるからって言っていたけれど、こんなに警備が手薄な中出歩いて大丈夫なの……? それともわからないだけで居るのかな……)

「どうしたの姉ちゃん?」
「ううん。何でも無いわ」
「ふーん。姉ちゃん最近ぼーっとしてたから。治療院作るのに疲れちゃったのかと思った」
「あの、ジウ……その事なんだけど。実は私のミスで治療院が開けなくなってしまって……楽しみにしててくれたのにごめんなさい」
 もしかしたら、もう少ししたら、等と期待させるような言葉はかえって残酷だ。エリスは端的に事実と謝罪とを伝え、頭を下げた。

「そっかあ……」
 想定した通りにジウの顔が曇っていく。ところが。
「もう少し、待っててくれるかな」
「ノッ、ノア⁉」
「え?」

 喉元まで出掛かっていた言葉をあっさりとノアはジウに告げる。慌ててエリスは振り向くが、その先にあった真剣な瞳に告げようとした言葉はたちまち揺らいでしまった。
「それってやっぱり出来るってことだよな?!」
「ジウ、その、どうなるかは……」
「必ずつくるよ。ただ、少し時間はかかると思う」
「本当?」
 身を乗り出すジウにノアは応える。
「必ず。でもごめんね。出来るまで少し時間はかかるから、その間ジウが安心して暮らせるようにお医者さんがすぐ呼べるようにしておくよ」
「ノ、ノア!」
 小声でノアを注意するものの、彼は大丈夫だと言わんばかりの微笑みを返す。
 本気なのだろうか。エリスと同じように、ノアもまた治療院をこの村につくる事を今も願ってくれているのだろうか。

「あのさ……エリス姉ちゃんもノアも無理、してない?」
 不意に、ジウの顔が歪む。
「オレ、知ってるよ。人が少ないミニアムに、もうからない治療院作るなんて言ってくれるの、エリス姉ちゃんくらいだって……本当はみんなも言ってる」
 ジウは慌てたように「悪い意味じゃない! 叶えばいいってみんな思ってるケドさ」と付け加えるが、諦めたような悲しげな瞳は変わらない。
 胸が痛くなった。想像以上に子供は大人を見ており、幼いながらも現状を肌で感じている。
 エリスは俯く。返す言葉が見当たら無い。
 ジウの指摘や不安はエリス自身も感じ続けていた事であり、治療院開院と経営に際して避けて通れぬ問題でもある。法律の問題が開院に深く関わってくるように、採算の問題は運営継続に深く関わる。善意だけでは安定した医療は見込めない。

「ジウ、君はとても賢いんだね。その通りだと僕も思う」
 澄んだノアの声が響いた。
「でも、僕は叶えるよ。エリスお姉ちゃんと一緒に、このミニアムに治療院をつくるって決めたんだ。みんなが元気な時も病気になってしまった時も、安心して暮らせるように」

 諭すように穏やかで、真摯で揺るがぬ声にエリスの目頭が熱くなる。気付けば唇をぎゅっと噛みしめていた。
「本当……? でも、でも……大変じゃないか?」
 尚も不安げな様子のジウに、今度はエリスが手を伸ばす。
「大丈夫だよ、ジウ」
 頭を撫でると彼は少しだけ頬を染め身を引く。自尊心を傷つけ、嫌がられたかと躊躇したが、どうやら照れ隠しだったようだ。固く不安げな表情は僅かに和らぎ始めていた。

「治療院がちゃんと出来るか、僕達が約束を守るか……見守っていてよ、ジウ」
 ノアはじっとジウを見つめる。穏やかに凪ぐ水面のような瞳はジウだけでなくエリスをも見つめ、優しく包み、誓っているようにも見えた。
「はははっ、わかった。良いよ! ノア兄ちゃん、エリス姉ちゃんも! 楽しみにしてるね!」
 ジウも、ノアも、エリスも。互いに顔を見合わせ微笑んだ。

 手を振りジウと別れ、洞窟へと歩き始める。
 すぐにでもノアに抱きつき、確認したい気持ちを抑えて。はやる胸を落ち着かせて、エリスは慎重に言葉を選ぶ。
「ノア、ありがとう」
「うん」
 二人の動きに合わせて淡く触れていた手が、互いに確かな意志を持って絡み、繋がる。
「私の夢を覚えて、付き合ってくれて」
「僕達の夢だよ」
 さらりと何気ない風に告げられた言葉は、握られた手と同じくらい強く温かかった。ほころぶ頬を柔らかな春の風が撫でる。

「僕が、エリスと叶えたいんだ」
「うん……」
 エリスは頷く。

 午前中に調べた資料には、王族の権限や法解釈が実例を交え事細かに記されていた。
 掻い摘んだ話、直系の王族やその配偶者が治療院のような機関を経営する事は限定的ではあるが可能である。
 営利を第一の目的としない事、私有財産のみを元手としその範囲内で経営運営に当たる事、その地位や名声を利用しての公の認識や秩序から逸脱した運営や王族とての矜恃の欠如及び政務への関与を禁ずる事等など。一般的ではない縛りも多いが、逆に制約を守る為のみに於いて、特別に認められている事も複数存在する。
 開院までの道のりは険しく、様々な特別な準備も必要そうではある。開院出来たとしても、法の範囲内での運営維持となると普通の医療機関よりも一層厳しいものになるだろう。
 だが、諦めなければならないわけではない。それにエリス達の目的は治療院を開き、運営することそのものでは無い。ミニアムに身分に分け隔て無く利用できる医療機関ができ、大人も子供も、病気の人も元気な人も、皆が安心して暮らせれば良い。そして先程、思いもよらぬ形でノアの気持ちも聞くことが出来た。

 ――――今も彼は治療院をミニアムに作りたいと願っている。
 楽観的に受け取り過ぎかもしれないが、まるでエリスやミニアムの皆の事を考え続けてくれていた……そう告げられた気がして、エリスは胸がいっぱいになった。

「よーし、まずは洞窟の調査ね!」
「ああ」
 ノアの手を握ったまま、エリスは思い切りのびをしてしまう。午後の太陽に左手薬指の指輪がキラリと反射して。慌ててエリスはノアに謝った。

 存在さえも忘れるほどに何の意味も持たなかったそれが、進む時になった今は重く感じる。軽々しく愚かしい己を思い出させ、心地良く弾んでいた気持ちを叱咤し戒めるように『過去を忘れるな』とエリスに存在を主張する。

(重いし、外したいよ。ここにはノアから貰ったものをしたい。けれど、この不快さに全然感謝してない訳でもないって、ノアには言えないな……)

 魔力が込められた指輪を見て、ふと先日の洞窟での話を思い出す。
 新たな契約と新たな枷、そして約束。悪魔の蔑むような笑み、断末魔の叫び達、傷だらけのノアの肢体……。

「エリス、大丈夫?」
「うん。頑張ろうと思って」
 エリスは真っ直ぐにノアを見つめ返す。
(私、ノアを好きになって良かった……)
 温かな風に、ほんの少しの冷気が混じる。
 エリス達は再び、ぽっかりと空いた洞窟の前へとたどり着いた。